「ねぇ、眞中くん。帰ろう」
「これから遊びに行かない?」
―――これなら悪い噂だろうが、何でも流れてる方がましやった・・・。
「ごめん。今日は用事があるから」
ニコリともしないでそう言うと、群れから逃げ出すように走り去った。
下足場へ向かうと、すでに杏子の姿はなく健一は肩を落とした。
「信一、遅いぞ!」
後ろから聞こえた、聞き慣れた声に振り返るとそこには、帰ったはずの佳祐がいた。
「お前、帰ったんじゃなかったのか?江坂は?」
「美穂はデートだってさ」
「デート?」
わけがわからないといった表情をする健一に、笑顔でいきさつを話し出した。
「1組の原田さんって知ってる?」
「知らん」
「マジで?あの容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の原田さんを知らんのか?」
驚く顔の佳祐を横目に、「文句あるか?」と言わんばかりの表情で健一はロッカーから靴を出し履き替えた。
「まぁ、いいよ。その原田さんが岡崎ちゃんと仲がいいみたいでら紹介してもらうんやってさ」
―――紹介って・・・男を紹介してもらうみたいやし。
そんなことより信一健一は、『岡田ちゃんと仲のいい』という部分が引っ掛かっていた。
「あぁあ・・・体育委員の子?」
「なんや、知ってるんやん!」
「あいつと一緒に居るのを見たことあるからな・・・」
「ふぅん」
怪しげな表情の佳祐を健一は睨み付け、
「何か言いたげな顔やな」
と言った。
「ほんま、お前は岡田ちゃんしか見えてないんやな!」
健一はニヤニヤしながら言う佳祐の頬をつねり黙らせた。
「めっちゃ痛いし・・・」
「佳祐が余計なことを言うのが悪い」
健一は、痛がる佳祐を無視して、学校を出ようとしていた。