「眞中く〜ん、おかえり」
「眞中くん、遅かったね」
―――あぁ、また始まった。耳障り、あの猫なで声。
杏子は、健一が教室に戻ってきた途端、騒がしくなったことに苛立ちを隠せなかった。
「あぁ、ごめん。佳祐と話してたら遅くなった」
杏子の耳には、健一が周りを囲っている子達と話をしている声が入ってきた。
―――いつもは無視してるくせに、機嫌よく話してるし。
「いいんよ〜。私たちはずっと待ってるから」
猫撫で声が大きくなったことにより、杏子は一層イライラしていた。
「あら、眞中氏、珍しく話をしてる・・・あっ・・・」
美穂が、あいつの様子を見て私に話しかけてきたが、杏子があまりにイライラしているのに気づき、言葉を止めた。
―――ちやほやされて、やっぱり嬉しいんやん!なに嬉しそうに話してるんよ!
「・・・杏子?怒ってる?」
「怒ってないし!!!」
美穂に対しても余裕がなく、八つ当たりをしてしまったが、美穂は「ふふっ」と笑っていた。
美穂の笑顔を見ていると、なんだかどうでも良くなってきた。
そして、杏子はあることを思い出した。
沙知から、テストが終わったら一緒に遊ばないかというお誘いメールが来ていたのだった。
美穂も一緒にとのことだったので、伝えると、飛び上がるように喜んでいた。
「杏子、原田さんと仲いいんや!行く行く!絶対に行く!ねぇ、原田さんってどんな子?」
美穂のテンションの高さに少々困惑しながら、答えた。
「い、いい子やで」
「そうなんやぁ。一回話してみたかったんよな」
―――沙知ぐらいになったら、有名人に会う感覚なんかな?
なんか・・・目が輝いてるし・・・男の子紹介してもらうんじゃないんやから・・・。
杏子は、ひそかにそう感じていたが、本人には言うことはできなかった。