杏子は、怒りがおさまらないまま、とにかく走り続けた。
―――なんやねん!あいつは!ちょっとモテるからって調子乗るなよ!女をなめるな!
帰りの電車の中でも怒りは治まらず、イライラしながら家に帰って来た。
自分の部屋に入ると、すぐにベッドに寝転がった。
「はぁ・・・」
杏子は、天井を見つめると、大きくため息をついた。
―――嫌なことしか考えられへん。
杏子は、気分を切り替えるために母親のいるキッチンに向かった。
「お母さん、晩御飯何にするん?」
「ハンバーグにしようと思ってるんよ」
「私も手伝う」
「ありがとう」
杏子の母の雅子は、管理栄養士の免許を持っている。
杏子は、小さい頃から雅子が料理する姿を見てきたので、自然と手伝いをするようになっていた。
杏子は、楽しそうに料理をしている雅子の顔が大好きだった。
そしていつも『おいしいね』と嬉しそうに言う父・晃平の顔も大好きだった。
両親の姿を見ていると、嫌なことも忘れ、幸せな気分になれた。
そして杏子自身もこんな夫婦になりたいと、いつからか思うようになっていた。
晃平も帰って来て、3人で夕飯を済ませ、お風呂に入ると、すぐにベッドに入った。