「よかったね・・・」
二人の姿を見ながら、杏子は健一に言った。
「・・・お前、泣いてんの?」
「泣いてないし・・・」
そう強がる杏子の瞳は潤んでいて、今にも涙が零れそうだった。
「じゃあ、こっち見ろよ」
そう言って、杏子の両肩を掴み自分の方へ向けた健一は後悔をした。
―――やばっ・・・ほんまに泣いてるし・・・。
歯を食いしばり、視線を健一に向けて、必死で涙を堪える杏子が愛おしくて、理性を狂わせた。
健一は、杏子の唇に吸い寄せられうように近づいた。
杏子は、近づく健一の顔に動揺していた。
健一は、逃がさないように杏子の肩に手を置き、引き寄せた。
「あんた何すんの!」
健一の行動に我慢ができなくなった杏子は、立ち上がり一喝した。
「お前・・・やばいって・・・後ろ・・・」
健一の気まずそうな顔を見て、今の状況に気付いた杏子は、肩をすくめて「しまった!」と目を閉じていた。
「のぞき見とは・・・随分、いい趣味してるんやね」
近づく猿渡と杉村に、杏子は苦笑いするしかなかった。
「せ、先輩。こんにちは。杉村さんも一緒やったんや」
杏子は、頭がパニックになり、わけのわからない言葉しか出てこなかった。
そんな杏子を見て、健一は腹を抱えて笑ってた。
「くくく・・・お前、意味わからんし」
「眞中、えらい楽しそうやな」
笑い続ける俺を見下ろして、猿渡は苦笑いをしていた。
「まぁ、猿渡先輩、よかったじゃないですか!うまくいって」
そう言いながら立ち上がった猿渡の顔はこれまでに見たこともない優しいものだった。
「お前らには感謝するよ」
猿渡の言葉に杉村は、わけがわからないといった様子だった。
「どういうこと?」
「ちょっとな。こいつらに勇気をもらったんや。それより、恵・・・彼女にちゃんと謝れ。お前また酷いことしたんやろ?」
「・・・・・・」
「な?」
杉村の顔を覗き込みながら話し掛けるさる私の顔つきがよりいっそう優しくなり、健一と杏子は顔を見合わせ「信じられない」と笑った。