「それって・・・誰?」
「言わせるか?・・・杏子ちゃんしかいてないやん」
真っすぐな視線と健一に抱きしめられている為、胸が一気に高鳴るのがわかった。
「・・・・・・」
―――ストレートに言うなんて思わんかった・・・。
健一は、少しだけを抱きしめる力を強くして、話し始めた。
「俺さ、杏子ちゃんは、俺なんて嫌いやと思ってさ、正直に言われへんかった・・・。
拒絶されるのが怖かったから・・・。
中学入って空手を習い始めて・・・体重が落ちた上に成長期も手伝って背が伸びて、原型が無くなったわけ・・・。
痩せて背が高くなった途端、女の子が寄って来て・・・なんか人間不審になってしまって、笑えなくなったんや」
―――そんなことがあったんや。
ぽつりぽつり話す健一の声を頭の上に感じながらこれまでの姿を思い浮かべていた。
「だから、いつも作り笑顔やったんや」
「それはひどいな・・・うまく笑えてたつもりやったのに・・・」
健一の本当の笑顔で杏子を見た。
「全然っ!よくあんな笑顔でキャーキャー言えるなと思ってたんよ」
そんな憎まれ口を叩きながら健一を見ると、より一層抱きしめる腕に力が入った。
「なぁ、杏子ちゃん?」
健一は腕の力を抜き、杏子と向き合うように距離をおいて立った。
「何?」
「・・・ずっと好きでした。俺と付き合ってください」
杏子は、答えることができなかった。
「ねぇ、眞中くん?」
健一の目をしっかり見ながら口を開いた。
「前に、私には忘れられへん人がいるって話したよね?」
「あぁ・・・」
「やっぱりね・・・その子のことが忘れられへん・・・」
そう、やっぱり杏子はガッくんのことを忘れることはできなかった。
確かに目の前の健一は、ガッくん本人なんだが、杏子にはまだ同一人物にはなっていなかった。