パタパタパタ
人気のない屋上へ続く階段は、足音をよく響かせる。
屋上のドアに手を掛けて、ゆっくりと重いドアを開けると、そこには健一の後ろ姿があった。
―――よかった、いてた・・・。
杏子は何も言わずに健一に近付いた。
生温い風が二人の髪をなびかせた。
「お前も笑いに来たんか?」
そっと近付く杏子に健一は、振り返りもせずに冷たい声で尋ねた。
「『お前』って誰のこと?」
杏子は、健一の隣に立って、顔を覗き込むようにして聞いた。
「お前さ、小学校の時から歩く時、パタパタ音鳴るの変わってないし」
「なっ・・・」
笑顔で自分の恥ずかしい所を指摘されて、思わず言葉が出なかった。
「顔真っ赤やし」
さらに、からかう健一の顔は、満面の笑顔になった。
「うるさい!」
杏子がふくれる顔がかわいくて、自分の顔も赤くなるのがわかったので、顔を逸らした。
「それで、何しに来たん?」
「大丈夫?」
「何が?」
「変な噂が流れてるから」
「あぁ、別に。それにうっとーしい女がいなくなって、せいせいするよ」
強がっている姿が杏子の胸を痛める。その時、再び生暖かい風が二人の髪を乱した。
―――あっ・・・。
風でなびいた健一の前髪から見えた額を見て、気付いた。
「おいっ!」
杏子が思いきり健一の制服の袖を引っ張ったので、健一はバランスを崩し、目線の高さが同じになった。
杏子は、健一の前髪に手を掛けて、一気に上げた。
「ほらっ!」
おでこには大きな黒色の痣。
「・・・・・・」
あらわになった額を見て、ニッコリと笑い、続けた。