―――これを岡崎さんに見せたら・・・俺が有利になるに違いない。
黒谷は、教室に続く廊下を急いだ。
友達と学食で昼食を済ませて教室に戻ろうとしていた黒谷を一人の男が呼び止め、人気のない所へ連れて行かれた。
―――猿渡聡太・・・。こいつが俺に何の用や?ってか、なんで俺の名前知ってるねん!
『何の用ですか?』
『まぁ、そんな恐い顔すんなよ。お前にとっては、いい話やからな』
黒谷は、猿渡の掴めない話に苛立っていた。
『・・・・・・』
『これ、見てみろ』
そう言って渡されたのは、1冊の卒業アルバム。
アルバムを手に取ると、猿渡の顔を見たが、あまりにも怪しげな笑みを零していたので、直ぐに目を逸らしアルバムを見始めた。
―――何こいつの笑顔・・・気持ち悪すぎやし・・・。
『これ、誰やと思う?』
『岩谷健一・・・?』
『眞中やで』
『えっ?』
猿渡の言ったことに驚き、猿渡の顔を見ると・・・さきほどの顔よりさらに怪しげな笑みを零していて、黒谷はその顔に寒気を覚えた。
『苗字は親が離婚したから、変わってるらしい。それ以上にこの顔変わりすぎやろ?はははっ・・・』
『・・・・・・』
高らかに笑う猿渡の姿を見て唖然としながらも、疑問に感じたことを聞こうとした。
『なぜあなたは、俺にこんなことを教えるんですか?』
『お前、眞中が邪魔なんやろ?岡崎杏子が好きなんやろ?それ貸してやるから、岡崎杏子に見せてやれば?幻滅するで?噂も本当やと思うんじゃないか?』
『・・・あの噂もあんたが?』
眉をひそめて、猿渡の顔を見たが、表情一つ変えずに口を開いた。
『整形疑惑は俺が言ったことじゃねぇよ。尾びれがついた話や』
『・・・・・・』
『返すのはいつでもいいからな』
そう言うと、黒谷の前から去って行った。
黒谷が足早に廊下を歩いていると、目の前に健一の後ろ姿を見つけ、近づいた。
「眞中」
黒谷の声に呼び止められた健一が振り返ると、眉間に皺をよせていた。
健一は、黒谷と目が合うと、さらに怪訝な表情となった。
「なぁ、お前の昔の写真見せてもらったで」
健一の目の前に猿渡から渡されたアルバムを出した。
健一は、黒谷の手元にあるアルバムを見て、目を見開いていた。
「これを今から岡崎さんに見せに行くところなんや」
「あっそ。勝手にすれば?」
黒谷は、自分の言葉に揺する様子もない健一に苛立っていた。
「そんな余裕をかましてられるのは、今だけやぞ!」
そう言うと、黒谷は足速に健一の前から姿を消した。