「・・・というわけ」
佳祐は真剣に話す健一の顔を見て、時折頷いて聞いていた。
特に何かを言うわけではなく、じっと聞いていた。
健一が一通り話し終えたあと、ようやく佳祐が口を開いた。
「なぁ・・・岡崎ちゃんが言ったんじゃないんやろ?彼女が太った奴が嫌いなんて言ったんか?」
「・・・言ってないけどさ・・・わかるよ。あんなデブ、俺が女でも暑苦しくて嫌になってくると思うし」
「俺は・・・岡崎ちゃんは、健一に助けてもらえて嬉しかったと思うけどな」
「・・・まぁ、いいよ。過去の話やし」
健一は、天井を見て、何かから逃げようとするかのように呟いた。
「過去ってよく言うよ・・・今でも好きやのに・・・」
「・・・・・・」
佳祐の鋭い指摘に、健一は何も言い返すことができなかった。
「・・・諦めなあかんやろうな」
健一は、自分の掌を見ながらため息をつくように呟いた。
「諦められるんか?」
いつになく真剣な視線を健一に向けている佳祐は、健一には自分の心の中を見透かしているようにも見えた。
「・・・でもあいつには忘れられへん相手がいるんや」
「そんなん、奪ったらいいやん!」
―――自分がうまくいってるからって余裕ぶりやがって。
「偉そうに・・・お前も江坂を元彼から奪うことができへんかったくせに!」
健一の最大限の強がり。これが、一番佳祐には効くのがわかっていた。
「それは・・・禁句やて」
―――江坂さんのことが好きやったのに、元カレから奪うことが出来なかったのに偉そうに言いやがって!
「でも、泣くほど好きな男ってどうなんよ・・・」
「意外と太っちょさんかもよ?」
「ないないない!」
おどけたように言う佳祐に、健一は迷いなく否定する。
結局、健一は、佳祐に言われたように杏子を奪うなんてことはする気にはなれなかった。でも、杏子を守るという決意は変わっていなかった。