もうすぐ卒業式を控えたある日。


掃除が終わり、ゴミを捨てに行こうとした時、中庭掃除をしている女子たちの声が聞こえて来た。


『香織ちゃんは、どんな男の子が好き?』


『え〜、背が高くて、優しい人かな』


恋バナというやつだ。健一は、完全に出ていくタイミングを失っていた。


『杏子ちゃんは?』


―――杏子ちゃんもいるんや・・・。


健一は、杏子の好きなタイプがどんな男かを聞きたかった。


『強い人』


杏子は、そう答えた。


―――強い人・・・・かぁ。


『やっぱり、男は強くないとね〜』


『でもいくら強くても、デブは嫌!』


―――無情にも誰かが言った。


『そうやんな?強くても、デブは問題外って感じやんな。暑苦しいし。無理やんな』


『ははは・・・妙ちゃん言い過ぎ』


健一には、静かにその場を立ち去った。


―――杏子ちゃんもきっと、そう思ってるんやね。僕が話し掛けるのもきっと迷惑やったんや・・・。気付かないで、ごめんね。





卒業式後、すぐに健一に両親が離婚したので、母親と一緒に別の土地へ移ってしまった。


誰にも別れを告げることはできなかった。


あえてしなかったと言った方が正しい。


そして、引っ越した先で、空手を習い始め、3年間で20kgほど痩せ、身長も20cm近く伸びたので、すっかり以前の面影はなくなった。