「ねぇ、ねぇ、眞中くん、どうしたん?」


放課後、いつものように女子が健一の机の周りに集まって来ていたが、黒谷から言われたことのいらだちの方が勝っていた。


「あ、ごめん。今日は体育委員会あるから」


「えー、そんなんさぼったらいいやん」


「ごめん。じゃあ」


健一は、いつものように笑顔を作って立ち去った。


「岡崎さん、委員会行こうか?」


黒谷がまだ帰っていないのが見えると、自然と足が杏子の席に向いていた。

健一の声に、帰る用意をしていた杏子は、顔を挙げ、あからさまに嫌な顔をしていた。


「じゃあ杏子、先に帰るなぁ。頑張ってよ〜」



「うん」


美穂は、杏子に声を掛けて教室を出た。


健一も杏子と同じように美穂を見送った。


「いや、一人で行くし」


杏子は、健一とは目を合わさず、答えた。

俯いていたが、嫌そうな顔をしていることは健一にも予想ができた。


「委員会の場所知ってるの?」


「えっ・・・いや・・・」


―――そりゃ知らんやろうな。俺、言ってないし。


「じゃぁ、一緒に行くしかないやろ」


そう健一が言うと、明らかに渋々といった顔で、付いてくる決心をしたようだった。


杏子が席を立つと、一緒に教室を出た。


その瞬間、教室にまだ残っていた黒谷を振り返り見ると、鋭い視線を向けた。


そして、廊下に出るとさらに鋭い視線を向けられていることに気づいた。


それは、健一と並んで歩いている杏子に向けられたものであった。


「なんであんな子が眞中くんと歩いてるん?」


「めっちゃ、むかつく!」


「調子乗ってるんちがう?」


こそこそと言っているのが健一たちの耳にも入ってきた。



健一は、杏子の様子が気になり目を向けた。


しかし杏子は動揺している様子もなく、無表情でまっすぐ前を向いて歩いていた。


「なぁ、岡崎さん。怒ってる?」


健一は、顔色を伺うようにして聞くと、杏子の眉間には深いシワが寄った。


それは、『こっちを向くな』と言っていた。


―――見るなってことか。


「別に怒ってないし」


杏子は、健一と話しているのがばれないように腹話術師のように口を開けずに話していた。

その後も、無言で体育委員会が行われる化学実験室に向かった。

確実に、誰がどう見ても杏子は怒っていた。