「杉村 恵のことや。知らんとは言わせへんぞ」
―――杉村?こいつ杉村とどういう関係や。
「・・・・・・」
「お前が恵と付き合えへんかったら・・・お前の秘密を暴露してやる」
「はぁ?俺の秘密?」
健一は、意図がわからない猿渡の言葉に苛立ちが増していた。
そんな健一の姿を見て、猿渡は胸ポケットから、一枚の写真を取り出し、健一の前に出した。
怪しげな笑みを浮かべる猿渡の持っている写真を見て、健一は目を見開いた。
―――これは・・・。
「これをばらまかれたくなかったら、恵と付き合え」
同じ高さから繰り出される目線は、まさに勝ち誇った人間のものだった。
しかし、次の健一の一言で、それはもろくも崩れてしまうのだった。
「ばらまきたかったら、ばらまけば?別にどうでもいいし。それより好きでもない女と付き合う方が屈辱的や」
健一は、そう言うと、猿渡のことを睨み付けた。
ほとんど動じることなく自分の要求を拒否した健一に対して、猿渡の感情はフツフツと沸いてくるように高ぶっているのがわかった。
「なんでや?なんでそんなに恵を拒む」
そう言う猿渡の表情は切なく、何か別の感情を持っているように健一は感じた。
「それならあんたが付き合えば?名前で呼ぶくらいなんやから、親しいんやろ?」
「・・・あいつは、お前が好きなんや」
健一を睨み付ける目の中には、嫉妬が見え隠れしているのが感じ取れた。
「俺は、杉村を許すことはできへん。俺の大切な女を傷付けたからな」
「岡崎杏子のことか?」
「・・・・・・」
なんでそこまで知ってるんやと問い質したかったが、猿渡に感情的になるのも無駄だと感じたのでやめた。
「この写真をみたら、お前の大切な女も幻滅やな」
再び怪しげな笑みを浮かべる猿渡に、表情ひとつ変えずに言い放った。
「俺らは付き合ってるわけでもないし・・・第一、あいつには好きな奴がいるからな」
そう言うと、何かを言いたげな猿渡に背を向けて、再び誰もいない廊下を歩き出した。