健一が誰もいない廊下を歩いていると、後ろから近付くに足音気づいた。

そして、その足音の持ち主に声を掛けられた。


「眞中健一」


フルネームで呼ばれたことと、聞き慣れない声だったことに、嫌な予感がし、ゆっくりと振り返ると、光の加減で顔の辺りが暗くて見えないが、体格はがっしりしている男が立っていた。


健一に近づいてくる男は、何度かは見たことはあったが、俺とは全く接点のない人物だった。


―――確か、猿渡聡太・・・。


一つ上の学年で、女遊びが激しいと、あまりいい噂を聞いたことがない人物。


―――なんでこいつが俺に話しかけるんや・・・?


健一がそんなことを思っていたら、猿渡の方からさらに声を掛けて来た。


「先輩に会ったら挨拶くらいしろよ」


半笑いという表現がまさに相応しい表情で猿渡が近付くことに、いささか嫌悪感を抱いた健一は眉間にシワを寄せて目の前の男に視線を送るだけだった。



「なぁ、お前、恵と付き合え」



目の前の男の出した名前が誰のことがわからず、さらに眉間にシワを寄せ、次に発せられる言葉を待った。