ホームルームが終わり、健一は帰る準備をしながらも、体育の時間に黒谷に言われたことを思い出していた。
同じくらいの背丈の二人は背の順で並ぶと前後だった。
「あ、眞中くん、昨日はどうも」
健一は、昨日、黒谷が杏子と帰っていたことを思い出した。
「・・・・・・」
黒谷は白い歯を見せ、白々しく爽やかな笑顔を健一に向けた。
―――この笑顔むかつく!しかも、ストレッチのペアかよ。
健一は、背後にいる黒谷に対して、無性に腹が立っていた。
しかも、杏子が黒谷に向けていた笑顔を思い出すと、さらに苛立ちが増した。
「眞中くん、よろしく」
「・・・・・・」
―――ほんま、うっとーしい、こいつ。
「なぁ、眞中」
健一の背中を押した瞬間、黒谷の声色が変わった。
そのことに健一も気づいた。
―――なんや?こいつ・・・。
健一は、黒谷の言葉を聞き逃さないように、耳を集中させた。
「俺さ、岡崎さんのこと狙ってるから、邪魔せんといてくれよ」
健一の体が固まるのをみて、黒谷は、「ふっ」笑いを零した。
「やっぱり、お前もも岡崎さんのこと好きなんや?」
健一は振り返り、黒谷を睨むと、黒谷も健一を上から睨んでいた。
「お前さ、あれだけ女を置いてるんやから、もういらんやろ?」
健一は、何も言わず、黙っていた。
「じゃあ、眞中くん、よろしく」
体育の授業が終わると、黒谷は健一の肩を叩き、笑顔で立ち去った。
―――くっそー、あいつなんやねん!!腹立つ!