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「勝たれへんかった・・・・・・」


全力を使い果たし、健一と黒谷は少し離れた場所で仰向けで寝転がっていた。

空は、健一たちの勇姿を讃えるように青く澄んでいた。

しかし、健一の気持ちはスッキリしなかった。

偉そうなことを言っていたのに、結局黒谷に勝つことはできなかった。


健一は、大きくため息をつき、目を閉じた。


「健一、最後のは執念のゴールやったな」


佳祐が健一に影を落としながら声を掛けてくれた。


「あぁ・・・もうやけくそやったよ」


ゆっくりと起き上がりながら答えると健一は苦笑いをした。


「眞中、お前なかなかやるな」


近づいてきた黒谷は、そう言うとニヤリと嫌な笑みを零した。


口ぶりは余裕ぶっていたが、黒谷が疲れきっていたのは表情でわかった。


「・・・・・・」


「同点ってことは、まだ諦めんでいいんやな?」


「・・・・・・」


「俺はどんなことをしても彼女を手に入れる」


黒谷の視線は健一の目を掴んで離さなかった。

その目からは、強い意思を感じられた。


「じゃあ、俺はあいつをどんなことをしても守る」


それを見ている佳祐は、「ドラマみたい」とニヤニヤしていた。


そんな不謹慎な佳祐が、健一に「健一も手に入れるって言わなくていいんか?」と聞いてきた。


―――俺はあいつを手に入れるよりも、守りたい。


「黒谷、お前の嘘はもうばれてるからな」


「だろうな」


健一と黒谷は数秒間睨み合っていた。

ものすごい歓声が聞こえるまでは・・・。

しかし、歓声が聞こえた時はすでに遅くて、健一と黒谷は女子に周りを取り囲まれていた。


「眞中く〜ん。最後すごかったね!」


「かっこよかったね」


「おめでとう」


「黒谷くんもすごいね」


「あれ?前田くんは?」


佳祐は、群れからいつの間にか脱出していて美穂の元へと走って行ってた。