杏子が体育館前へ行くと、まだ誰も集まっていなかった。

立ち尽くしていたら、後ろから気配を感じて振り返ると、優しい顔をした健一が立っていた。


「足、怪我したんやって。大丈夫か?」


「うん。ちゃんと受け止めてくれた人がいてたから大丈夫やで」


笑顔で応え、健一の顔を見つめた。杏子の表情を見て、健一は表情を曇らせた。


「そっかぁ・・・」


俯いた健一に、疑問に思っていたことを聞いた。


「ねぇ、なんで助けてくれたん?」


「・・・・・・」


健一は、目を丸くして動かない。


「私、あんなにひどいことを言ったのになんで?」


杏子の言葉に圧倒されているのか、目を泳がせながら言葉を探しているようだった。


「上から人間が降って来たら、普通助けるやろ?」


「・・・それだけ?」


冷静に答える健一に挑戦状を叩きつけるように聞いた。


「好きな女を助けて何が悪い!」


見つめられた視線が痛いくらいに突き刺さる。


「じゃあ、絶対に黒谷くんに負けたらあかんで!」


杏子の言葉に、健一は目を真ん丸にして驚いた。


「・・・なんで知ってるんや?」


「さっき、前田くんに全部聞いたし」


「・・・・・・」


黙っている健一に最後の一撃を加えた。


「あんな嘘つきに負けたらあかんで!わかった?」


さっきまで迷っているような表情をしていた健一の目から迷いがなくなった。


「お前にそんなこと言われんでも俺は負けへん」


「よかった・・・」


健一が力強く宣言してくれたことが嬉しかった。


「なぁ・・・」


「眞中く〜ん。さっきの試合かっこよかった〜!」


健一が何かを話し始めた瞬間、体育委員の女の子たち健一のまわりに集まってきたので、何と言いたかったのかはわからなかった。

一瞬にしていつものクールな表情に戻った健一に、杏子はなぜか安心していた。