コートに目をやると、2セット目が始まっており、すでに2組に5点を先取されていた。


「・・・あのさ黒谷くんも私が階段から落ちるのを見たんかな?」


「あくまで俺の予想なんやけど、見てないと思う」


―――おそらく黒谷は見ていない。もし杉村の企みを事前に知っていたら、岡崎ちゃんの傍を離れず見張っるぐらいはしていただろう。

そして、真っ先に自分が助けていたに違いない。

でも、黒谷は、あの場にはいなかった。

ということは、杉村に聞いて保健室に来たと考えるのが自然である。



「見てない?じゃあ、なんで保健室に来たん?」


杏子は、さらに疑問を投げかけてきた。


「杉村に聞いたんじゃないかな?」


「杉村さん?」


杏子は眉をひそめ、佳祐に尋ねた。


「あぁ、この前、岡崎ちゃんが杉村に呼び出された時も、黒谷が助けに来たんやろ?

あれ、黒谷は杉村とぐるになってたんやで。健一が、黒谷と杉村が話しているのを聞いたんや」


佳祐の言葉に杏子は『信じられない』といった表情で佳祐の方を見た。


「えっ?・・・・・・じゃあ、黒谷くんは、私が殴られたりする前から知ってたん?」


杏子は、混乱する頭の中を整理し、一つの答えを導き出した。


「そういうことやね。ってか、殴られたん?大丈夫やった?

あっ、その時も健一は助けに行ったんやけど、黒谷がいたから引き返したんや。

でも、その後も、やっぱり黒谷があの場所に来たのはおかしいと思って、奴に聞こうと捜してたら、たまたま黒谷と杉村が話してるのを聞いてしまったってわけ」


「・・・・・・・」


杏子は、真実を知り、口を閉ざしてしまった。


「ごめん。ショックやった?」


佳祐は、杏子の顔を覗き込むようにして聞いた。


「大丈夫。それより私ひどいこと言ってしまったし・・・」


「健一なら大丈夫・・・かな?まぁ、今は黒谷との勝負のことしか考えてないやろうけど・・・」


美穂たちの試合に目をやると、大人と子どもの試合が続いていた。


「勝負って?」


「どちらが多くゴールを決めれるか。負けたら、岡崎杏子を諦める」


佳祐がニヤリと笑って説明すると、杏子は驚きを隠せず目を丸くしていた。


「はぁ?何を勝手に!でも、黒谷くんって、元サッカー部じゃないん?」


この言葉を聞いて佳祐は安心した。


杏子は、健一のことを心配していることがわかったから。健一に負けて欲しくないと思ってるとわかったから。




「そんなことは百も承知。だから必死に戦ってるんやで?」


「・・・・・・」


「あ〜あ。負けた」


「えっ?」


「美穂たちやで」


「あ、うん」


試合が終わった美穂に手を振り、呼び寄せた。


「美穂、お疲れ!」


試合が終わってすぐの美穂は、少し悔しそうな顔をしていた。


―――まぁ、相手も悪いし、味方のメンバーも悪いから仕方ないよ。


「あかんかった〜!」


「美穂は頑張ったよ!」


「でしょ?」


自慢げに胸を張っている美穂は美しかった。


「じゃあ、俺、また試合あるから」


そう言うと佳祐は、体育館を出て行った。