美穂の話にさらに混乱していると、杏子は前から来た中西に声を掛けられたので、美穂は「先に行くね」と言い、教室に向かった。
「岡崎!お前、階段から落ちたんやってな!今日は力仕事はしなくていいからな!」
「すみません」
中西は「気をつけろよ」と頭を軽く叩き、去って行った。
その時、自分を助けてくれた健一の姿が見に入った。
健一の方へ足を運ぼうとした時、後ろから呼び止められた。
その声に驚き、振り返ると、いつもと変わらない爽やかな笑顔の黒谷が立っていた。
「おはよう。足は大丈夫?」
―――なんで普通に話し掛けられるの?
「うん。大丈夫。昨日はありがとう」
―――助けてくれた振りをしてたんやね?
「じゃあ、教室に行くわ」
「うん」
―――何を考えてるの?何を企んでるの?
黒谷の背中を疑いの目で追い掛けた後、健一の姿を捜したが、すでにいなくなっていた。
―――なんでいなくなるんよ・・・。聞きたいことがいっぱいあるのに・・・。
杏子は、納得できないまま教室に向かった。
ホームルームの間も、杏子は、美穂に言われたことを頭の中で整理していた。
杏子と健一の席は、ほぼ対角線上だから見えるはずがないのに、一つ道ができたように健一の横顔が見えた。
杏子が呼んだかのように、健一はこちらを向いた。杏子は目をそらさず、じっと見つめた。