「岡崎さん」
急に声を掛けられたことに驚き、二人は振り返った。
そして、目の前にいた人物を見て、杏子は瞬きをするのを忘れていた。
「明日、体育委員会があるんやって。担任から伝えるように言われたから」
要件を伝えると彼は、ニコッと笑った。
杏子が苦手な作り笑顔だった。
「わざわざ、ありがとう」
杏子は、表情筋を動かさずにお礼を言うと、前を向き再び黒谷と歩き出した。
―――やっぱり、あの笑顔は嫌い。あんな風に笑ったら、女なら落とせるとでも思ってるに違いない。でも、私は、違うんだから。
「さっきのって、同じクラスの眞中やんな?」
「そうやね」
杏子は、健一の話はしたくなかったので、そっけなく答えていた。
「前から知り合い?」
「えっ?違うよ」
―――どうして、そんな風に思うのかな?ただ、体育委員だから声を掛けてきただけなのに。
「ふぅん。あいつカッコイイよな?」
「そう?」
黒谷の顔を見上げた杏子の表情は、険しかった。
「彼氏にすると大変そうなタイプやね」
「女の子が常に周りにいるからな」
―――急に現れて、なんなのあいつ。
杏子は、健一の作り笑顔を思い出すと、身震いをし、眉間にしわをよせた。