机の上には持ち主がわからないハンカチ。
―――一体誰のなんやろう・・・。
目を閉じると、優しく微笑む彼の顔と握られた温かい手の感覚が戻って来て、胸が締め付けられるように痛かった。
「杏子、開けていい?」
雅子の優しい声がドアの向こうから聞こえたので、杏子は起き上がり返事をした。
「いいよ」
ゆっくりとドアを開けて入って来た雅子は、少し心配そうな顔をしていた。
「あんた、最近おかしいよ?あんまりご飯も食べへんし」
「・・・・・・」
杏子は何も言うことができなかった。
小学生の頃、いじめられて両親には心配をかけてきたのに、高校生にもなって、同じようなことで、心配させるわけにはいかないと思っていた。
「何かあったら、お母さんに話しなさいよ」
「うん」
部屋から出ようとした瞬間、雅子は机に引き寄せられるように近づいた。
「このハンカチ、懐かしい!」
雅子は、急に子供のような笑顔でハンカチを広げながら言った。
「えっ?お母さん、そのハンカチ知ってるん?」
「あんた何言ってるん?これ、あんたのやろ?ほら、ここに『OK』って刺繍してあるやろ?」
指差した先には確かに『OK』の文字。
「これさ、お母さんがあんたのイニシャルを刺繍するのに『KO』って入れようとしたら『KO』やったらノックアウトみたいやから、『OK』にしてって言ったんやで!
覚えてない?それより、あんたなんでこんなに濡れてるん?洗っておくで!」
「う、うん」
―――思い出した・・・。あのハンカチは・・・確か・・・・。
杏子は、記憶を呼び起こした。