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「ただいま」


家に着くと、いつもなら雅子の顔を見てから自分の部屋に入るのだが、今日は顔を合わせたくなかった。


「おかえり。あんた、どうしたん?その足!」


雅子は、驚いた顔をしながら杏子に近づいてきた。


「階段から足を踏み外した・・・」


「相変わらず、鈍臭いなぁ」


「ひどいなぁ。お母さん、私、部屋でいてるから、夕飯が出来たら教えて」


杏子は、そう言うと自分の部屋に向かい、いつものように部屋着に着替えると、ベッドへ横になった。








『杏子ちゃん、大丈夫?』


ガッくん・・・?



顔がぼやけて見えへんけど、ガッくんやんな?



『一体どこに居てたん?ずっと会いたかったんやから・・・』


『ごめんね』


俯くガッくんに縋り付くようにお願いをした。




『もうどこにも行かんといて・・・』



『うん』



大きく頷くとガッくんは、杏子の手を握ってくれた。








あれは、夢やったんやね。



夢でガッくんに握られたはずの左手には、まだ握られているような感覚があった。



保健室で目を覚ました時も左手を握られているような感覚があったことを思い出した。


ゆっくりと握っている掌を広げると、そこにはびしょ濡れのハンカチ。そして、目の前には黒谷がいた。



杏子は、黒谷に誰のハンカチなのかを聞けずに持ち帰っていた。