トントントン
ゆっくりとドアを開けると、保健室の中は静まり返っていた。
一歩足を踏み入れると、カーテンの向こう側に人の気配を感じたので、足を進めた。
カーテンを少し開けると、健一が杏子の手を握って俯いていた。
黒谷が入ってきたことには気づいていなかった。
「眞中」
静かに名前を呼ぶと、健一は杏子のの手を離し、振り返った。
その目は、鋭く怖気付きそうになったが、黒谷も同じように睨み返した。
「お前、よく来れるな」
健一は、立ち上がると黒谷に言った。
「お前こそ、岡崎さんに言われたことを覚えてないんか?」
今この時にこんなことを言うのは、黒谷自身ずるいとは思っていた。
しかし、黒谷は自分が杏子を守ると決めていた。
「・・・・・・」
「岡崎さんが起きて、お前がいてたら、嫌な思いするんじゃないか?」
「・・・・・・」
黒谷が口にする言葉を健一は黙って聞いていた。
健一は目を閉じ、拳を握りしめ、下唇を噛み締めていた。
「今、成瀬先生は職員会議に行ってるから、もしこいつが起きたら、内線かけてやって。番号はあそこに書いてるから・・・」
黒谷は、健一が指差す方向を見つめた。
そして、健一はゆっくりと腕を下ろすと、黒谷に近づき、
「こいつを泣かせたら俺が許さんからな!」
と言うとそのまま保健室から出ていった。
遠ざかる背中を見ながら、健一の気持ちを汲み取った。
―――あいつ本気なんやな・・・。はぁ・・・俺は卑怯や・・・でも・・・どんな手を使ってでも手に入れたいんや。