トントントン
「失礼します」
成瀬が出て行って、しばらくすると佳祐と美穂がやって来た。
「成瀬先生は?」
心配そうな表情をして、美穂は健一に聞いた。
目が赤い。
健一にも、美穂が泣いたことがわかった。
「職員会議やって」
「杏子は?まだ起きない?」
「あぁ」
目の前の杏子は、ただ睡眠をとっているようにしか見えないくらい気持ち良さそうに寝ていた。
「眞中くん・・・昨日はひどいことを言ってごめんなさい」
美穂は、頭をしっかりと下げて健一に謝った。
「謝るのはこっちの方やし。実際、俺は意気地無しやからな」
「そんなことないよ!杏子のことを守る眞中くん、かっこよかったよ」
「彼氏の前で他の男を褒めるか?」
佳祐の表情を見ながら健一が言うと、「いや、男の俺でも惚れそうやったで!」と、佳祐はニッコリと笑いながら美穂の言葉に付け加えた。
「え〜。私、眞中くんに負けた?」
「ははははっ!」
3人の笑い声は、保健室の天井に吸い込まれていき、沈黙の空間には杏子の静かな息遣いだけが聞こえていた。
ふと棚の上に置いてあったデジタル時計を見ると、『17:15』を示していた。
「佳祐、こいついつ目を覚ますかわからんし、彼女も遅くなったらあかんから、送ってあげろよ」
「あぁ、わかった。美穂、行くか?」
「・・・そうやね」
美穂は、帰ることを躊躇していたが、健一が「大丈夫やから」と言うと頷いた。
そして、佳祐と一緒に保健室を後にした。