トントントン
「はぁい」
保健室の中から養護教諭の成瀬の声がしたのでドアを開けようとしたが、杏子を抱えているので開けることができなかった。
「すみません、ドアを開けてもらえますか」
パタパタと足音が近づいて来たと思ったら、ゆっくりとドアが開けられた。
「失礼します」
「あら、どうしたん?あなたは?」
成瀬は、突然現れた健一に目を丸くしていた。
「俺は1年5組の眞中です。彼女は、岡崎杏子です」
「あ、まぁ、彼女を寝かせてあげて」
落ち着いた感じで成瀬はベッドを指差した。
健一は、言われた通り、ゆっくりとベッドに寝かせ、布団を掛けた。
「それで、どうしたん?」
成瀬は、机に向かい日誌のような物を広げながら、俺に聞いた。
「階段から足を滑らせて・・・俺が受け止めたんですが、気を失ってるみたいで・・・」
「そう。頭は打ってないのかな?」
「それは大丈夫です」
「そう、あなたは彼氏?」
「いえ、ちがいます」
なんでそんなことを聞くんやろうと疑問に思いながらも、健一は答えた。
「そっかぁ・・・あんまりにも大切に抱っこしてるから付き合ってるんかと思った」
ふふふと笑いながら、健一の顔を見ると「好きなんやね。この子が」とだけ言うと、再び何かを書き始めた。
成瀬は、30歳そこそこの養護教諭。
結婚して子供もいるが、サバサバした感じが男女共に人気がある。
「私ね今から職員会議なんやけど、彼女のこと見ておいてあげてくれる?」
「はい」
「よかった。じゃあ、起きたら連絡ちょうだいね。内線番号ここに書いてあるから」
成瀬は内線番号が書かれた紙を指差し、「よろしくね」とだけ言い、出て行った。健一は、丸椅子を杏子が寝てるベッドの側に置いて、座った。