「痛って〜」
バタバタと倒れる音と共に、誰かの声が聞こえ、美穂はゆっくりと目を開けた。視線の先には、尻餅をついた健一上に杏子が乗っかっていた。
健一が杏子を受け止めていた。
「よかった~」
美穂が杏子のもとに駆けつけようとした瞬間、階段の上の方から、誰かが「チッ」舌打ちするのが聞こえた。
反射的に振り返ると、杉村が階段の舌を睨みつけていた。
―――杉村さんが?突き落とした?
杉村の様子も気になったが、杏子の様子が心配だったので急いで階段の下まで駆け降りた。
「杏子、大丈夫?」
「岡崎さん、大丈夫?」
「杏子ちゃん?」
ギャラリーが増えて来て杏子を心配する声が掛けられるが、杏子は返事をしなかった。
「気を失ってるみたいやな」
健一は、ホッとした表情で杏子の顔を見つめていた。
「俺が受け止めたから、頭は打ってない」
その言葉に周りも安心した顔をしていた。
「じゃあ、俺、こいつを保健室まで連れていくから」
そう言うと杏子を軽々とお姫様抱っこをし、保健室へ向かった。
美穂と佳祐も健一の後を追って、保健室へ向かった。
「ほんま、杉村恵ありえへん!」
廊下を歩きながら、美穂は杉村さんに対する怒りを爆発させていた。
「美穂も見たん?」
「杏子の元へ行くときに振り返ったら、杉村さんが杏子を睨んでいた。あーあの顔を見るだけで腹立つ! 」
「あれはやり過ぎやな。犯罪やん。一歩間違ったら大事故や」
「杏子が無事でよかったよ・・・」
美穂は張り詰めた糸が切れたように、涙が溢れてきた。
子供のように泣きじゃくる美穂を佳祐は優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫。岡崎ちゃんには、健一がついてるから」
「うん」
佳祐の胸の中で大きく頷いた。
佳祐の大きな手で美穂の頭を優しくなでた。
「じゃあ、保健室行くぞ」
「うん」
美穂たちは、見えなくなった健一を追いかけた。