健一は、教室を出ると、ふらふらと目的もなく廊下を歩いた。人気のない資料室が並ぶ廊下に人影が見えた。


その影に近づくように歩幅を広げた。


「なぁ、杉村。ちょっといい?」


「なぁに?眞中くん」


―――なんだこいつ。そんな甘えた声を出しても本性は、ばれてるんやぞ?


「お前、あいつ岡崎に何をした?」


「えー?なんのこと?」


―――ほんま、腹立つ!こいつが男やったら絶対に殴ってる!


「とぼけるな!岡崎に何かしたやろ!」


殴れない代わりに、声を荒立てて杉村に噛み付いた。


「ちょっといたずらしただけ〜。ノートを破いたり。教科書とか制服とかを破られなかっただけありがたいと思って欲しいわ」


―――はぁ?こいつ、なんで普通にこんなこと言えるんや?


「そんなこといつからやってるんや?」


「眞中くんが私の傘に入ってくれなかった次の日からかな」


『好きでもない女と一緒の傘に入るくらいなら、濡れた方がまし』


健一は、自分の言った言葉を思い出すと、顔が歪めた。


「・・・・・・」


「しかも、あの日、岡崎杏子の傘には入ってたでしょ?それが許されへんかった!」


杉村は顔を見上げ、視線を絡ませた。


「だからって・・・あんなことするのはやめろ!」


「止めてほしかったら、私と付き合って」


「お前は・・・」


「最低と言われようが、私は眞中くんに振り向いて欲しいの!なんであんな子がいいん?私の方が、かわいいし、スタイルだって・・・」


健一の言葉を遮るように杉村が口を開き、そして健一の手を掴み、自分の胸を触らせた。


「ね?あんな子供みたいな体型の子より私を抱く方がいいと思うけど?」


「・・・・・・」


表情一つ変えず、そして無言のまま、自分の腕を掴む杉村の手を離した。


「・・・・・・」


「俺は、あいつにしか興味ないから」


そう言うとと杉村に背を向けて歩き出した。


「あの子がどうなってもいいんやね?」


「どんなことがあっても俺はあいつを守る!」


顔だけを杉村の方に向け、固い決意を投げ付けた。


―――対にあいつを守ってやる!


そう健一は決意し、教室へ戻った。


健一が教室に入ったとたん、教室の緊張の糸が張りつめられたのがわかった。


ひそひそと噂話をする奴らを無視し、席についた。


「やっぱり、黒谷がぐるになってたんか」


静かに席に座る健一に佳祐は、声を潜めて聞いてきた。


「あぁ。今、杉村とも話をしてきた。・・・あの女、何するかわからんから、佳祐も協力してくれ」


「わかった」


佳祐も静かに頷いてくれた。