「千明!千明ってば!」



早足で歩く千明を追いかけて、いつのまにか研究所の芝生のある庭にまできてしまった。


外はもう真っ暗で、今日はうすぼんやりとした半月の光しかない。



「ねぇっ、まってよ」



後ろから声をかけても、振り向いてもくれない千明の腕をつかむ。


ようやく振り向いた千明は、ぎこちなく笑顔を作ったけれど、それは痛々しくなるくらいに無理矢理なもので悲しくなる。

いつもの千明の太陽みたいな笑顔がそこにはなかった。



「千明......、どうしちゃったの?」


「......ごめん、何でもないから。
ちょっと苛ついてただけ」


「うそ、何でもなくないよ」



心配しないで、と千明は笑顔を作るけど、心配しないなんて無理だよ。 

だって、さっきから全然笑えてない。
笑顔を作ってるつもりかもしれないけど、笑えてない。

そんな千明は悲しすぎるよ。



「何か悩みがあるなら、私で良かったら聞くよ。

日本語が話せる私だったら、他の人よりも話しやすいんじゃない?
......あ、千明は英語もスワヒリ語もばっちりだったね。

でもほら、私もいつも千明には元気もらってるから。ね?」