「それじゃあ、授業を始めるぞ〜。」
教室に先生が入ってきて、いつも通りに授業が始まる。
私は退屈そうに欠伸をして外を眺めた。
「……宮!咲宮!」
突然名前を呼ばれた私は、それまで見ていた窓の外から視線を先生に向けた。
「…なんですか?」
少しムスッとして。
「なんでそんなに不機嫌なんだ?」
「なんでもないです。それで、なんですか?」
「自己紹介お前からな。」
「は?」
突然の発言に私は困惑を隠せなかった。
そんな困惑を振り払い、私は手を挙げて立ち上がった。
「異議があります!」
先生はおろか、クラスメイトも「は?」という顔をした。
「…なんだ?」
「なぜ私からなんですか!?」
しかし、その答えは即座に返された。
「お前が俺の話を聞いていなかったから。」
「う!?」
それを言われると何も言えない。
まあ、確かに話し聞かないで外見てたけど。
だからって私からじゃなくていいよね。
「だいたい、空にぃは私のこと知ってるでしょ。」
「そりゃそうだけど、お前だけしないのも不公平だろ?」
少しいらっとした。
「…わかりました。」
「素直でよろしい。」
笑顔でこちらを向く。
その笑顔に少しドキッとしたのは内緒。
「…咲宮心愛です。好きなものは、イチゴオレです。よろしくお願いします。」
あちこちから拍手が起こり、席に座る。
すると、後ろの席の人から声をかけられた。
「ねえねえ、咲宮さんって白坂先生の妹なの?」
「え?」
突然どうした。
名前も知らないクラスメイトの言葉に私は困惑を覚えた。
「な、なんで?」
「だってさっき"空にぃ"って呼んでたから。」
「ああ。」
なるほどね。
それは誤解されるよね。
「違うよ。空にぃは家が近かったからよく遊んでもらってたの。」
「え?じゃあ、兄妹じゃないの?」
「違うよ。第一、名字違うじゃん。」
そうなのだ。
私と空にぃはよく遊んでいた。
ただそれだけなのだ。
好意を持っているのは、私だけなのかもしれない。
そんなことはわかっていた。
だけど、今はこの切なさが心地いい。
私はもうすぐここからいなくなるから。
そんなことを考えていると、授業の終了を告げるチャイムが鐘のように鳴り響いていた。