あまりにも呆然としていたせいか、船長はダルそうに階段を降りてきて、私のことを軽々と持ち上げた。
その勢いで船長の背中に思いっきり顔面が強打し、ついつい呻き声が漏れる。



- - -結構痛い。



「・・せ、船長!まず手当てをしないと・・。」


「あとは俺がやっておく。おめぇらもとっとと寝ねぇと、明日も練習台に使うぞ。」


「「おやすみなさい!」」




悪魔の笑みを浮かべた船長は「そう、それでいい。」と、不適に笑い声を上げた。

担がれたままの私とロンとティムは目を合わせながら、きっと同じことを考えているだろう。



「「「(悪魔だ・・。)」」」




・・・と。








半ば無理矢理船室に放り込まれた私は、一言めに「脱げ。」と命令が下った。
結局はどっちに転がっても最悪な事態にはかわりなくて、頬には汗が滴り落ちていく。



「だ、大丈夫です。」


「脱げと言ってるんだ。」


「せ、船長の手を煩わせる訳にはいきません。自分でやれますから・・。」



私は逃げるように船室にある小さな浴室に逃げ込んだ。
なかにはいい香りのボディソープやシャンプーが置かれている。



- - -だから船長はいつもいい香りがするのか。



一人納得した私はスルスルとティム兄さんから借りた洋服を脱ぎ始める。



「痛っ。」



やはり両肩は大きく腫れ上がって、私の真っ白い肌は赤く染まっていた。



- - -ううう、最悪。



今まで大事大事に育てられた来たこともあって、こんなに痛い経験も初めてだ。

少し触れるだけでも顔が歪み、一言で言えば最悪と言う言葉がぴったり当てはまる。



「・・おい。」


「きゃっ。」



突然現れた船長に驚いたせいで、女の悲鳴が浴室に響き渡った。
ぶかぶかのワイシャツからは真っ赤な両肩が露になり、わかる人が見れば私の正体が女だと言うことが、すぐにわかってしまう程の距離に船長はいた。



「・・・。」


「ご、ごめんなさい!閉めます!」



慌てて戸を閉めようとしたときには、もう遅かった。
船長は私の手を引き、気が付けば私はベッドの上。


一瞬のことで目もチカチカする。



目の前には月明かりに照らされた船長の顔。



- - -わ。



船長は言葉も出ないほどの綺麗な顔立ちをしていた。
私と同じ金色の髪は色っぽく伸びていて、ブルーの瞳が私をとらえる。

まるで逃がさないとでも言うように。



「せんちょーー」


「黙れ。」



船長の綺麗な大きい手がはだけた私のワイシャツを、無理矢理脱がせようとする。



「やっ、め・・て下さい!」



右手で脱がされなようワイシャツを掴み、左手で船長の手を振りほどこうとするが、私の必死な抵抗も最早無駄でしかない。

私は所詮、男装した女。
本物の男の力になど勝てるわけもないのだ。



最後には、



ビリビリビリッッ!



と船室の空気を引き裂く音が空しく散った。




「うっ。」


「・・・。」



ビリビリに破けたティム兄さんの白いワイシャツ。
そこからはさらしを巻いた私の胸元。

初めて経験する男の力に恐怖で涙が溢れた。



「やめて・・って、い・・たのに!」


「・・・。」



震える私を上から見下ろすアルバート船長。
そして意地悪くも、片方の口角を上げて不適に微笑んだ。



「・・てめぇ、女だな。」


「!」



船長の目は獣のように私の胸元を見つめた。



- - -怖い。



船長を見れば見るほど涙が滝のように溢れて、肩も激しく震え出す。
最早両肩の痛みなど、とうの昔に忘れてしまっていた。