◇ ◇ ◇ ◇


客船と間違えて海賊船に乗り込んで早7日が立った。
だんだんと船員とも親しくなってきて、徐々に"僕"と言うのにも慣れ始めた時、突然船長は私を船室に呼び出した。



「な、なんでしょうか?」


「・・お前普段は何処で寝ている?」


「えっと甲板の上ですけど・・。」



そう私は自分を男と通しているから、みんなと一緒に甲板で眠っている。
初めは抵抗があったものの、今ではすっかり慣れてしまった。

何より綺麗な星空を見ながら眠れるのは最高に気持ちが良いのだ。

だから結構お気に入りだったりする。




「今日からお前はこの部屋で寝ろ。」


「なっ、ななな、何でですか!」


「・・船長命令だ。背く気か?」


「喜んで寝かせていただきます。」



みるみるうちに青ざめる顔。
サーッと血の気も引いていく。


私は急いで船室を出た。







「ティームッ!まぁた船長に怒られてたの?」


私は男装をしてから兄さんの名前を借りて、"ティモシー"と名乗っている。
通称ティム。

私は今まで掃除と言う掃除はしたことがなかったから、ほぼ毎日船長に呼び出されては怒られる・・この繰り返し。

ご飯も作ったことがなければ、モップの使い方もわからず、窓ガラスを磨く方法も知らず、危うく貴族出身とバレてしまうところだった。

だから船長から怒鳴られるのは毎度のこと。



「ロン!」



初めて会ったときの、天真爛漫な少年はロンと言う。
綺麗な茶色い毛は猫のようにさらさらだ。

今ではロンが一番の仲良し。



「ううん、今日から船室で寝ろって言われたんだ。」


「えぇ?!
誰もあの部屋で寝かせない船長が?!」


「う、うん。何でだろう?
僕は何かしたのかな?」


「まっ、まさか船長・・ティムにふしだらなことを・・。
ちょっとちょっと!ヴァイス!」



ロンは寝ているヴァイスを慌てて叩き起こした。



「煩いですね、ロンは。
聞こえてましたよ、全く・・・。」



面倒そうに上体をあげるのはヴァイス。
黒髪を後ろで縛っていて、とても優しい人だ。

ロンは腹黒いヤツだの一点張りだけど。



「船長がふしだらなことをするわけ・・ないとも言えませんが、ティムは男です。まずないでしょう。」


「でもさぁ!
ティム男のわりには女っぽいじゃん!」



ギクリッ。



「あなたは本当に馬鹿なんですか?阿呆なんですか?馬鹿なんですか?一体どれですか?」


「あぁ?!
何で馬鹿を2つ言うんだよ!」


「最早選択も出来ないとはちゃんと脳ミソ入っているんでしょうか?あ、失礼しました。あなたは生まれつき蟹ミソ程度しか入っていませんでしたね。すみません。」


「あーー!もう怒った!
剣を抜くぞ!銃の引き金を引くぞぉぉぉ!!」


「おぉ、神よ。この愚かな人間をお許しください。」


「うぜーーーーー!!くたばっちまえ!!」



この二人はいつも子供のように喧嘩をしている。
もう見慣れたけど大体この二人が言い合っていると・・



「煩ええええぇぇぇぇぇえぇぇ!!!」


「「げっ!」」


「ひっ!」



怒り狂った船長が顔を出す。
これも毎度のこと。