ザザーーーーーン・・・



「なぁ、こいつは新入りか?」


「さぁ?
にしても男の癖にひょろそうなやつですね。」


「船長は知ってるのかなぁ?」


「さぁ?
とりあえず起こしてみたらどうです?」




バシャアァァァンッ!



「キャッ・・アアアアァァァア!」


「「「えぇ!!?」」」




ぽたり・・ぽたり・・


目を覚ますとすでに出航したであろう、船。
そして真っ青なコバルトブルー色の海。


そして・・
何故かびしょびしょな私。

全く状況が読めない。



「お、お前・・新入りか?」


「え?」



前を見れば腰に剣と銃を下げた男たちが3人。
声を掛けてきた男は赤毛色の髪の毛をオールバックにして、茶色い大きな目を見開いている。



「綺麗なソプラノ声ですね。」



ふわりと優しい微笑みで見る男は、黒い髪を後ろで縛ってブルー色の目で物珍しげに見下ろす。



「(・・新入り?)」

「お前!
ひょろっちいなぁ~!」



天真爛漫に声をかける男は茶色い髪色にグリーンの目。
この中では一番関わりやすそうだ。



状況を読めていない私は、きっと間抜けな顔で男たちを見ているに違いない。



「わた・・僕は、」



何て言えば良いのだろう。
客船に乗り込んだはずなのに、明らかに客船のスタッフとかけ離れている人たちだ。


どういうことだろう?



「僕は客船に・・」


「客船?!」



茶色い毛の男が驚いた顔で他の男たちを見る。
3人とも口をあんぐり開けて、唯一部屋がありそうなところを見つめた。




「ぼ、僕は客船に乗り込んだと思うのですが・・
違うんでしょうか?」



"僕"ってとても言いづらい。

気を抜けば"私"と言ってしまいそうな気がする。

途端に肩を震えさせる男3人。
そして大きな声で叫ぶのだ。




「「「せっ、船長~!!!!!!」」」








「と、とりあえず落ち着きましょう!
君はこの船を客船だと思って乗り込んだ・・間違いないですか?!」


「さっきそう言ってたじゃん!
どうすんの?!船長ただでさえ機嫌悪いのに!!」


「黙ってください。
どうすればいいのか私も考えているんですから!
これだから馬鹿は困るのです。」


「ばっ、馬鹿だとぉ?!!」


「えーぇ、馬鹿だと言ってるのです。」


「俺のこと言ってんのかよ!」


「言葉もわからないとは・・最早救いようのない大馬鹿者ですね。呆れます。」


「やんのかぁ?!」


「おいおい、やめとけって。
船長に聞こえる。」



突然黒髪の男と茶色い毛の男がまるで子供のように言い合っている。
私はこんな下らない言い合いは見たことがない。

こういうときはどうすればいいのだろう。









バアアァンッ!

「・・煩ぇぞ!お前らぁ!!!」



「「「げっ!!」」」


「ひっ!」




思わず小さな悲鳴が声漏れる。
慌てて口を塞いで声のする方を見れば、どす黒いオーラをまとった男がドアにもたれるように俯いている。



「「「せ、せんちょお・・。」」」



ぎろり。
目だけをこっちに向けている船長と呼ばれる男は、猛獣のような顔つきだ。

少し顔色が悪く、息も上がっていて苦しそう。



- - -こっ、怖い!

「せ、船長。
こいつは新入りっすか?」



赤毛の男がにっこり微笑んで声を掛ける。
口角を無理矢理あげるものの、目は全然笑っていない。
完全に顔はひきつっていた。



ぎろり。
今度は私を睨むように見つめると、益々どす黒いオーラは濃くなった。



「俺は新入りなんて入れた覚えねぇぞ。」


「「「で、ですよねぇ・・。」」」



私はびしょびしょに濡れた髪を綺麗に掻き分けて、ただ固まるしかない。



「・・お前、誰だ?」


「せ、船長。
私に説明させてください。」


「黙れ、ヴァイス。
俺はこいつに聞いてんだ。
おい、そこのひょろっちいやつ。
ちょっと来い。」



手をゆらゆら。
導かれる先は船にある唯一の室内。

ごくり。
震える肩を必死に抑えようとするが、それに反するようにからだが動かない。

私は確信してしまった。




乗る船を、


間違えてしまったということを。