「・・服。悪かったな。それでかいだろうけど着とけ。」


「え?」


「破れた服、ティムってヤツのだろ?」


「あ・・よくわかりましたね。」


「男が付ける香水の香りがした。それに・・」


「?」


「事情を知った上で、それを着てられてるとイライラしちまうからな。」


「イライラ?」


「まぁいい。ところでお前名前は。」


「名前?」


「ティムなんて本名じゃねぇだろ?
何で俺がそいつの名を呼ばなきゃならねぇ。
ほら、さっさと言えや。」



どくん どくん。
不覚にも優しくなった船長に対して、心臓が大きく揺れ動いた。

おかしい。
恐怖の塊でしかなかったのに。



「マ・・リア。」


「マリア?」


「マリア・オルコット。」



久しぶりの私の名前。
しばらく言っていなかった私の本名。

やっぱりこっちの方がしっくり来て、その響きすらも懐かしい。



「マジかよ・・。
オルコット家の箱入り娘かよ!」



船長は片手を額に当てて、大きく溜め息を突いた。
そして私に一歩・・二歩・・三歩、目の前まで近寄って言い放った。



「益々俺から離れるな。島についても上陸禁止。
降りても俺のそばから絶対に離れんじゃねぇぞ!いいな?」


「な・・んで?」


「マジで世間知らずだな。
お前がオルコット家の人間ってバレたらオーロソット海賊団が誘拐したって言われちまう。
お前が間違って乗ったとしても、だ!わかったな?」



ぎろり。
出会った頃のような怖い目付きで私を見つめる。

だけど何処か優しくて、あれほど感じた恐怖も一切なかった。



「は・・はい。」


「さっきは悪かったな。
もうお前が怖がることはしねぇから、安心して寝ろ。」



気が付けば船長の胸のなか。

とくん とくん・・と一定の音を保って、船長の鼓動が私に安心感をくれた。



「感謝します。アルバート船長。」


「アルでいい。マリア。」


「・・アル。」



どくん。
経験のない胸の締め付けが私を襲う。



- - -良かった。かたちはどうであれ、ティム兄さんを探しに行ける。



この時気づいてなどいなかった。
すでに私の心は船長に奪われていたことを・・。