止まらない涙を拭おうとも、両手を釘で打たれたイエス様のように船長に押さえ付けられていた。
そして悪魔の笑みを浮かべて、こう言うのだ。
「知ってるか?
涙を流して抵抗すると、男は逆に燃える生き物なんだぜ?」
「!」
そう言うと船長は私の首筋に顔をうずめ、首になま暖かい柔らかい感触が滑っていく。
「やっ、め!」
「声を上げれば聞こえちまうけどいいのか?」
「ひ、どいっ!私はっ。」
"処女だ。"
喉まで出掛かったその言葉を、唾液と共にスッと飲み込んだ。
よく父に言われたものだ。
処女だと言うことは男に決して言ってはイケないと、叩き込まれて育った。
経験がないと言うだけで、男は目の色を変えるえげつない生き物だと。
船長には悪いが、今の彼にはぴったりだ。
「た・・すけて、ティ・・ム、ヒック・・。」
「・・・。」
私はティム兄さんを探しに海に出た。
町では世間知らずなお嬢様。
ボディーガードもなく、一人で海に出ることに不安がないと言えば嘘になる。
だけどどうしてもティム兄さんが死んだなんて、信じられなかった。
"生きている"と言う僅かな可能性を捨てきれない私に対して、神様がお怒りになったのかもしれない。
だったらこの酷い仕打ちも受け入れる他ない。
「・・ティムとは、愛する者の名か?」
「?」
「・・そうなのか?」
「は・・い。私の探している大事な人です。」
「探している?」
どうしてだろう。
信用も出来ないアルバート船長に、言葉が口から放たれるのは。
止めようにも、涙と共にからだから放出されていく。
「5・・年前、行方不明になって、探すために客船に乗り込んだのです。なのに私はーーー・・」
「・・お前箱入り娘か。」
「確かに・・世間知らずな娘でございます。
・・殺すのならば・・、お早くしてくださいまし。」
止まらない涙。
私は船長をじっと見つめて、覚悟を決めた。
するとさっきまでの獣のような船長は跡形もないほど、優しく微笑んだ。
「人魚のように美しいお前を易々と殺すと思うか?」
「えーーー・・?」
「・・動機は不純だが、殺さず船に置いてやる。
それからお前は今後俺のそばを離れるな。いいな?わかったか?」
そう言うとスッと私から離れて、クローゼットを乱雑に漁り始める。
「わからないのか?返事はどうした。」
「でもっ・・雑用は・・。」
「やらなくていい。貴族の娘などにそんなことをやらせたなんてバレたら打ち首もいところだ。まだ死にたくねぇしな。」
「そんなっ、私は!」
破れたシャツで胸元を隠しながら、船長に歩み寄る。
「まぁいい。その愛する者を探す旅、オーロソット海賊団も手伝おうじゃないか。」
「え?!」
船長はそう言うと、私に向かって洋服を顔面めがけて投げ付けた。
突然のことで下品にも「ぶっ!」と声が漏れてしまう。