「奈々ちゃん」


振り返ると、そこにいたのは彼だった。


「高橋さん・・・?」


私が彼の顔を見ながらそう言うと、彼は目を細めて「名前、覚えててくれたんや」と嬉しそうに言った。


座っていたから背の高さがわからなかったけど、背も高いんだ・・・。


「あ、うん」


私は曖昧な返事をすることしかできながった。


「でも、孝太郎って呼んで欲しいな」


私に近づきながら腰を曲げ、20cm程高い目線を私に合わせて言った。


・・・・・やっぱり女慣れしてるなぁ。


そう思ったが、嫌な気はしなかった。


嫌な気にさせない雰囲気を出すのも、この人のテクニックなんだろうと冷静に分析していた。


「奈々ちゃん、抜けない?」


私の耳元で囁くと、「俺、このまま出るから、もうちょってしてから来て」と続けて、出口に向かって歩き出していた。




えっ・・・・・・抜ける?



私は動揺していたが、その様子を誰にも気付いてもらえず、一人であたふたしていた。



どうしよう・・・・・・。




孝太郎くんって、軽そうやからやばくない?


私は、出口から出ていく彼の背中を見つめて立ち尽くしていた。


彼のようなタイプの男性は、正直苦手。

関わりを持ちたくない。


でも、今の私は迷っていた。



それは、きっと同じ日に生まれたという偶然を偶然として扱っていなかったから。