いつも通りの夕暮れ、
私はひとりで通学路を帰っていた。

私の通う、エトワール学園はお丘の上にある。
だからいちいち長い下り坂を降りていかないといけないのだ。

「めんどくさいわね……」

エトワール学園は、由緒ある金持ち学校。
しかし、やはりここは高校。
歩いてくることが当たり前である。
だからお嬢様だろうが、一般生徒であろうが、
もしくは……生徒会長だろうが長い坂を上り下りしてこなければならない。

そして今まさにめんどくさがって歩いている彼女こそ、
世界をまたにかける御子田グループのご令嬢にして、
エトワール学園第10期生徒会長、そしてアイドルグループsweatgirlsの
リーダーである御子田瀬璃奈である。
長い髪に、青い瞳、すらっと高い身長、そして美人…いうなれば完璧な女性だ。

瀬璃奈がしばらく歩くとそこには、リムジンが停まっていた。
リムジンから若い女性が出てくる。

「瀬璃奈お嬢様、お帰りなさいませ」
「……ええ、ただいま祭崎さん」

彼女の名前は祭崎薫子。28歳。
顔立ちはかなり整っているほうで、その顔は薄化粧でも華やか。

「お荷物をお預かりいたします」

仕事もそつなくこなす、御子田家の家令だ。

祭崎さんがリムジンのドアを開けてくれる。

「どうぞ、お嬢様」

私は、リムジンに乗り込んだ。
しばらくして、リムジンが動き出す。

リムジンの窓を全開にして、外を眺めた。

そして数日前のお母様の話を思い浮かべる。

「瀬璃奈、あなた一人暮らしなんて本気なの?」
「はい、もちろんです。本気じゃなきゃお母様に相談などいたしません」

瀬璃奈ははっきりとそう言った。
瀬璃奈の母、御子田怜奈は眉をひそめた。
だが、なぜかその目はまた微笑んだ。

「いいわ、許してあげる」
「え…?」
「ただ、ひとつ条件があるわ」