「なんで…」

私にはわからなかった。

ただ、忘れたい。
それだけだった。



「お嬢様…?」
結城が台所に来てびっくりした。


「な、なに⁈」
「いや…、か、顔色が…」
「…大丈夫だよ。陽斗…」
「そうやって呼ばないで下さい。もう、関係は戻ったんですよ。いちいち恋人みたいに接さないでください」

忘れようと思ったのに…
またあの声で…


「私の気持ちも知らないで…そんなこと、言わないでよ‼︎私は…、冨樫陽斗が好きだったんじゃない‼︎結城陽斗だから好きだったの‼︎」
「別れようって言ったのは…帆乃香だった…」
「わかってる‼︎だから、後悔してるのよ‼︎あんなに好きだったのに…」


理由も言えなかった。
本当の理由なんて…。



「だったらなんで‼︎」
「ごめん…、もう、あの関係には戻れないわよね…」
「…はい…」



なに、その悲しそうな表情は。
なに、その悲しそうな声は。




彼は悲しそうに台所から出て行く。
あの悲しそうな背中は
いつもよりも小さく見えた。




(私、なにやってるんだろ…)




さっきのことも今までの関係も
全部忘れたい。
それだけだったけど、好きなのに変わりはなかった。

仲直りしたい。

寄りを戻したい。




もう、無理だってわかってるけど









ただ、好きだから。








それを思って
夕食を作り始めた。