野球部のみんなが解散してから
私たちは打ち上げで
カラオケをすることになった。



私の家でカラオケをすると
胡桃が言い出したため、
私の家に向かう。

まだ、陽斗に記憶が戻ったことも
言ってないまま。
早く言わなきゃ…。



家に着いた。


「懐かしい…」
私は思わずそう呟いてしまった。


「ここが帆乃香の家。さすがお嬢様…」
「あのさ、帆乃香」

胡桃がこそこそはなしてくる。

「もう、みんなに言うよ?」
「うんっ」


私の部屋に入ってから
みんなを集めて
座らせた。


「えと、私から話があります‼︎」
「ん?なんだなんだ⁇」



胡桃は私を無理やり立たせて言った。




「帆乃香の記憶が戻りました‼︎」




みんながキョトンとしている。





「えぇ⁉︎ほんま⁈」
三吉先輩の関西弁が出た。

「はい‼︎確認します?」
「おう!」
「じゃあ、前みたいにならんで下さい」


胡桃がそう言ったらみんなが
前みたいにならんだ。



やはり、最後は陽斗だ。




「じゃあ、言ってもらいましょう‼︎」



そう言われ私は順番に
名前を言った。
また前みたいに
最後の一人以外は全員わかる。


でも、もう、
前みたいなことにはならない。


もう、わかるもの。







「はい、じゃあ、最後の人は?」




私は彼に笑顔を向けて言う。




「陽斗」
私の大好きな人の名前。





彼の目には涙が浮かんでいた。



「え、冨樫⁈」
「嬉しくて…」
「ね、結城…」
「バカっ、ここで言うなっ」
「え、結城って?冨樫じゃねーの?」

みんなは知らないのだ。
胡桃と寿也くん以外は誰も。


「えと、俺の名前は結城陽斗なんです」

みんなが驚く。


「えと、つまり…」
「冨樫は偽名ってこと?」
「はい」

遥香先輩にはわかったようだ。

でも、翔太先輩と三吉先輩には
わかっていない。




「ま、いいや。わかりにくいし、陽斗って呼んでええか?」
「はい!なんなら、宮川先輩も‼︎」
「お、おう…」


陽斗はみんなに陽斗と
呼ばれる方が嬉しいようだ。


「あ、私、夕飯作ってきます」

私がそういうと…

「いけません、お嬢様‼︎」
「ぁ…」
「あ…つ、つい!」
「二人は本当仲良いよな」




嬉しいけど…
嬉しくない。
なんでだろうか。


嬉しいはずなのに。



どうして。



そんな時、ある言葉が頭をよぎった。










『別れたんだから関わんな』






今までにない冷たい視線。
冷たい声。





嫌な予感がする。







胸の奥が痛い。





「帆乃香?顔色が…」
「だ、だいじょーぶ‼︎」


私はわざと笑って見せた。




そして
陽斗から離れるように
台所に逃げて行った。