「チサトと申します、」


男にしてはとても澄んだ声だった。

今まで何十人と言う男たちが供物としてやってきたが、こんな綺麗な声は久しく聴いていない。


「…チサト、か。私は知っての通りだ。…今日からよろしく頼む、チサト。」


深々と再度頭を下げる彼は、程なくして宮人長に連れられ退出した。

恐らく今からここでの礼儀作法とやらを教え叩き込まれるのだろう。



たった…ひと月の為に…。



静かに簾越しの外を見た。

眼下に広がる街並み。

ここで生活する人々。


髪の色もその瞳の色も…全てが、全てが違う。



どうして私はこんな場所にいるのだろう。

どうしてこんなことになってしまったのだろう。



どうしようもない感情がこみあげてくる前に、ひっそりと下唇を噛んだ。