それからしばらく、あまりカスの出ない耳の穴を一周して
「こんなものかな? 痒いところはもうないでしょ?」
麻理子がそう言うと、急に仰向けになり、麻理子の目を見つめて
「最後にフーフーして!」
とおねだりをした。
「・・・・・やだよ。」
急に冷めた目つきで龍を見下ろす麻理子、
龍は慌てて、
「だって、子供の頃かぁちゃんにフーフーってしてもらってたから・・・
最後にフーフーしてもらえないとなんか終った気がしないんだよね。」
「終らないと帰らないつもり?」
「フフッ その通り!」
生意気そうなニヒルな笑みを浮かべて、又膝の方へ向き直す龍。
「しょうがないなぁ・・・・」
麻理子は龍の耳たぶを軽く引っ張って穴を広げると、唇を尖らせて息をふきかけた。

「フーーッ フー・・・!?」
息を出す口がいきなり生暖かく、柔らかい物で塞がれた。
麻理子は慌てて目を開けると、
目の前に向きを変えて上半身を起こした龍がいた。
唇と唇がゆっくりとワルツに乗っているようなリズムを刻んで離れていく。
龍の瞳が徐々に開き始めると、

バチーン
とたんに麻理子の平手が飛んできた。
「いてっ」
叩かれた頬に手を当てて、再び目をつぶり、痛みに耐える龍。

「うっ・・・・・うぅ」
慌てて目を開けると、麻理子が目に涙をいっぱい溜めて小刻みに震えている。
なにか言葉をかけようとしたが、なにも言い出せない龍に
浴びせかけるように麻理子から口火を放つ。

「あんた・・・・あんた!私のことそんな風な目で見てたの?」
こんな・・・・・こんな四つも離れた姉のような私に向かって こんなことして!
年上をなめんじゃないわよっ!」

麻理子の勢いにキスを拒まれた悲しみよりも、麻理子に嫌われた悲しみが強くて
龍はただ見つめているだけだった。

「私は・・・・・・・私はね、龍くんのこと男として見てないから。
私から見たら5歳の子供みたいなもんなんだからっ。」
麻理子はそういうと シクシクと静かに泣き続けている。
友達のような兄弟のようなこの関係が壊れてしまった事が
悲しくて仕方なかった。