龍のアルバイトは順調だった。
情報テクノロジー支部の社員の中でも浮くことなく、
皆に可愛がられていた。
常勤になってからは社員本人でなくても良い仕事等は
龍が代理で請け負うこともしばしばあったので、
社員にとっても龍はいなくてはならない存在となっていた。

龍の仕事は早乙女グループの核となる人材のすべてを共有することで
社内の情報を漏らさないという、新しい規約を結ぶ契約がされたが、
時給の他に数千円の手当てがつく事で、龍も満足そうにしている。

情報を漏らさないという規約は龍が思っているよりも過酷だった。
全てが優良で善良な社員ではない、
龍の仕事をただのお手伝いさんとしか捕らえていない人物もいるし、
果ては気に入っている女子社員の尾行を命じる者、
同僚の足を引っ張るよう、命じてくる者 本当に十人十色だ。
それだけではない、他のライバル会社からも あの手この手で情報を仕入れようと
龍にスパイを放つ会社もあった。
どんなことでウッカリ口をすべらしてしまうのか、
又は口をすべらせてしまった後、どうなってしまうのか・・・。
どう謝罪すれば許してもらえるのか・・
さまざまな不安が龍を襲ったが、
なるべく知らない人との私語を慎むこと、 社員と特定の仲にならないこと、
仕事以外の付き合いを勉強を理由に、一切断る事を自分の中のルールにすることにした。

「社員同士が全て仲間とは言えないから、
君自身が私情を挟まないように注意して、ま、なにかあればいつでも私か夕子に相談しなさい」
と、社長はそれだけ忠告すると社長室から龍を帰した。