「あっ 夕子さんはご一緒じゃないんですか? まだ社内にいらっしゃるのかも・・」
寺山が適当に話せば次のターンで「ではお先に」と言うつもりだったが、
寺山の応えはその言葉に続くことができない返事だった。

「君を待ってたんだよ」

「ど・・・どうしてですか?」

寺山はフッと照れた笑みを浮かべると目線を横にずらしながら
「どうしてかな・・・・・君に興味を持ったんだ」
とだけ話すと、麻理子の横まで進み、「一緒に帰ってください」というと
断る隙を与えなかった。
返事も出来ず、できるだけ寺山から離れて歩こうとする麻理子だが、
その都度歩幅を合わされてどうにもすることができない。
願わくば夕子に見つからないでほしいと、辺りを見渡しながら足早に歩く。
すると寺山も一緒になって小走りに歩いてくる。

「あっ もう駅に着いてしまいましたねっ では、お疲れ様です。」
作り笑顔で寺山にむかって会釈をするが、
寺山はそんな麻理子をただジッと見ているだけだった。
(返事をしてくれないと行くに行けないじゃない)
「あの・・・」
寺山の顔色を伺って言葉をかける。
「ちょっとゆっくり話せる所に付き合ってもらえませんか?」
「ぇえ?」
驚く麻理子を軽く無視して麻理子の腕を引っ張りながら駅近くの飲み屋が
沢山隣接されている繁華街へ誘導しようとする。
繁華街の奥の方には 「HOTEL」と、キラキラ輝くネオンの看板が連なっている。

「寺・・・寺山さん?!・・あのっどこへ?」