彼の名前は 安達龍 今年20才になったばかりで 、大人になった記念の一人旅なんだそうだ。
茶色の毛糸のダブっとした帽子に黒ぶちメガネ いかにも大学生といった風貌で
口調は ちょっと自信過剰? 自分が6年勤めて、ベテランになった頃にこんな生意気な奴が
新入社員にいたら嫌だな・・などと 麻理子は考えていた。
旅の道連れが出来た安心感からか、気持ちに余裕を取り戻しているようだ。

「えぇ・・部屋は開いていますが・・ 1泊ですか?」
フロントの女性と話す安達龍、 一緒に探すと 麻理子は言っていたが彼の後をついて歩いているだけで、
彼が旅館への道のりを調べるのも、フロントと話をつけるのも行っていた。

龍が繭をしかめながら麻理子の座るロビーに戻ってきた。

「あのさ・・・空いてたよ」

「え! やったぁ! やりましたね!」

龍の話を最後まで聞かずに騒ぎだす麻理子。

(こいつ・・自分で何もしてねーのに なんでこんなに達成感感じてるんだよ・・。)
龍は 呆れて続く言葉を一瞬忘れていた。

「お部屋、龍さんの近くだといいなぁ~」

「あ! ちょ・・・あのさ。 部屋一つしか空いてないって。」

「えええええーーー! えええ・・・ やっ やだやだ。」
麻理子は もう 疲れきっていた。 温かいロビーのふかふかのソファーに腰をかけた瞬間から
もう、他の旅館を探すのも、バスの停留所から遠く離れるのも嫌だった。

「仕方ないじゃない・・・ 君、ここで泊まるか? 俺別のところ探しに行くし。」

「ええええ やだやだ 離れるのもやだっ。」

「チッ・・・・ボリボリボリ」

また不機嫌そうに後頭部を掻く龍の姿に 麻理子は唇をキュッと結び、上目づかいで龍の顔色を伺う。