「さぁ、こっちへいらっしゃい」
早乙女社長に優しく背中を支えられながらリビングへと進む。
狭い通路には 小さな額縁が張ってあり、そこには早乙女家の先祖と思わしき、
古い、白黒の集合写真が飾られていた。

「いらっしゃい、久しぶりね・・・」
優しく微笑む女性は やはり夕子だった。
白いブラウスの胸元にはダイヤらしい、アクセサリーがキラキラと顔を覗かせ、
優雅にフレアスカートを靡かせている。

「すげぇ・・・指先からつま先までピカピカじゃん・・」
龍は夕子の美しさに頭の中が真っ白になるようだった。

「かけて?」
夕子は左手をソファーへとしなやかに傾け、二人を導いた。

「お砂糖とミルク、どうされるのかしら?」
コーヒーカップを人数分、受け皿と共に静かに置きながら、龍の顔をチラリと見上げる夕子。
「あ、砂糖とミルク、アリアリでっ」

「アリ、アリっと」
夕子はミルクと砂糖を1つずつ、コーヒーカップの脇に置いた。
「フフッ ・・・変わらないわね龍・・」
「いやー夕子ちゃんも・・・」
「彼女は出来た?」
「高校卒業してから? できるわけないじゃん」
「ウフフ そうよねぇー」
夕子は満足そうに右手を口元に添えて微笑んだ。
「さ、世間話はその辺にして、アルバイトの説明をしておあげなさい」
早乙女社長はそういい終えると、自分の役目は終ったとでも言いたげに、
コーヒーを美味しそうに飲み始めた。
「やーね、お父様ったら、せっかちなんだからぁ さ、龍・・コーヒー冷めないうちに飲んじゃって」
「あっはい」
夕子にミルクと砂糖を入れて、混ぜてもらってから コーヒーカップを手に取る。
その姿を見た早乙女社長は「相変わらず仲が良いな」と羨ましそうにつぶやくと
社長室のイスへと戻って行った。