麻理子はこれといった特技のない、普通の女性だけれど、
料理をすることは 好きだった。 向いているかもしれない、
でも、プロを目指すようなことはせず、 疲れている日は出来合いのものを
買ったりしながら、無理をせずに料理を楽しんでいるようだ。

小さな片手鍋に1/3ほど水を入れる。
大きなタッパーから出汁用のいりこを4匹ほど取り出して、頭と腹わたを
指でもぎ取ると、水の中に放りこんだ。
いりこが水で戻るように 火を沸かさずに、先に野菜を洗う。
洗い終わると、火をつけて また、まな板のところまで戻り、
洗った野菜を、それぞれの形に、切り分ける。
野菜を切り終わった頃には水は沸騰し、さきほど入れたいりこがゆらゆらと
体の向きを何度も変えている。
いりこを全て取り除くと、
そこに切った野菜を放り込んでしばし待った。
この、待っている間も、卵をボウルに割ってときほぐすという作業を予定していた。
全て計算されているかのように リズム良く無駄な動き一つない。

料理が全て終わり、テーブルの上に温かい味噌汁とご飯、常備していた漬物
そして買ってきたオカズが並ぶ。
この時間が麻理子は一番好きだった。