「ただいま・・私の城」

麻理子は一人暮らしをしていた。20才から勤めている貿易会社からは徒歩10分、駅前にある、このボロアパートを
麻理子はいたく気に入っている。
親には「1階が美味しいパン屋さんなのー!」と自慢していた。

全体的に可愛い家具たちは親が出したお金で集めた物だった。
親は、「出世払いだぞ」と一言つけくわえて くれたお金だったが、麻理子にはもらった物のように
感じている。

「そうだ、実家と友達に連絡しておかなくちゃ・・」
そう言って旅行カバンから 黒く、ツヤのある携帯を取り出して、上の蓋を片手で開きながら カバンの中身を外に出していた。
雪の中で、バスを探して駆けずり回った想い出のある、Gパンを、カバンから引きずり出して ふと笑う。
「あの時は辛かったなぁ・・・」
自分の人生で一番辛かった思い出は 後になると武勇伝に変わる。
麻理子は無事に帰れた自分の頭をなでてやりたい衝動にかられた。
「そうだ、連絡連絡・・」
そう言って携帯の方へ体ごと向きをかえると、麻理子は驚愕の表情を浮かべた。

開いた携帯の液晶画面には 昨日夜を共にした龍と見知らぬ女が中良さそうに肩を並べている姿が映っていた。