麻理子が最後のハムサンドを飲み込んでいる間に 竜が席を立って会計を済ませてくれていたので、
食べ終わるやいなや龍は、 自分のカバンを左肩にかけて、麻理子のカバンを右腕に通すと その手で
麻理子の腕を引っ張って旅館を出た。

「ありがとうございましたー。」
後ろの方でロビーのウェイトレスの声が聞えたので
麻理子はひっぱられながらも後ろを振り向き、会釈をした。

龍は麻理子の左腕をつかんだまま 白馬荘までの道を大股で進んでいく。
麻理子もそれに従って小走りで黙って付いて歩いた。

(こいつの考えてる事がまったく判らないわ・・・ なんなの急に・・・)
そう思いながらただ、龍の背中を見つめていた。
ジャンパーからは龍の少し焼けた 首筋がみえていた。
首筋に添って上を見やると、龍の小さな頬と ひよこのように短く、柔らかそうな髪が、風にふわふわと踊らされている。
麻理子の腕をつかむ龍の腕はジャンパーごと服をたくし上げていて、肘までの肌があらわになっている。

ふしくれだった豆状骨(手のくるぶし)から、 伸びる血管の筋が麻理子には眩しく映った。