龍の顔を恐々見上げると、龍は、うっすらと目に涙をためているように、うるんでいた。

龍は左腕で目を擦り、鼻をズズーッと鳴らすと、体の向きを変えてカバンから財布を取りあげ、
麻理子に1万円札を渡した。

「どうしちゃったの・・・本当に・・」1万円を龍から受け取りながらそう言うと、
(やった・・私8000円で済んだわ。)と押さえ気味に微笑む麻理子。

龍は そんな麻理子を見て、
(この女・・けっこう芯が強いんだな・・・無理して笑みまで作って我慢しているのか・・・)
と、また目に涙を溢れさせながら、一人頷いていた。
「あ、もう7時半よ、 ロビーで軽く朝食とろうよ!」

麻理子と龍は、さきほどフロント係に指差された、大きな窓に隣接してある、
小さなテーブルを挟んで、向き合っていた。
テーブルの上には ブラックコーヒーの入った、白い陶器のカップ、そしてその横にはハムサンドが
同じく、小さな白い皿の上に2枚置かれていた。

龍は すでに全部食べていて、皿の上にはパンの粉が少し散らばっているだけだが、
麻理子は食べるのが遅く、1枚だけ残っていた。もう一枚は今、麻理子が頬張ったばかりである。

「早く食べないと 又バスに乗り遅れますよ」

「むしゃ・・んぐっ焦らせないでよー。 それにね、君、敬語はやめてよね、
いくら4つ年上だからって・・・」

「コーヒーで流し込め!」
「ちょっ・・と 命令口調はもっと嫌です!・・・むがっ」
「ほらほらほらほら」
龍は残りの一枚を無理やり麻理子の口元に押し付ける。

「むがー!(やめてよー)」
そうこうしている間に 龍のおかげか、45分には麻理子も食べ終わることができた。