22:25 まだバスは来ない

麻理子の足はジダンダを踏むように交互に足踏みをしだした。
バスの来ない不安か、それとも寒さで足が悴むのを防ぐ為か?
繭の形がハの字になり、目が膜を張ったようにうるんでいた。
何度も何度も360度暗闇の中で 明かりと 動く物を確かめるも
22時の景色となんら変わりは無い・・・。

22:30 バスは・・・まだ来ない

「ああぁ んもうっ もうやだ・・・私なんでこんな冒険しちゃったの?
冒険はね、ハッピーエンドじゃなきゃ 良い冒険とは言えないのよ!
冒険の末、帰れず凍死とか・・ 皆にバカにされて終るだけじゃない!」

「ピ・・・・・・ガゴォ・・・ン」

電話BOXの後ろにある、自動販売機から重たい缶ジュースが落ちた音がした。
慌てて振り向く麻理子、
自動販売機からジュースを取り出す 地元の女性らしい人の姿があった。

「あ・・あのっ」 藁をもすがる思いで声をかける、

「はい?」

「あ・・すみません、あの、 ここって大阪行きのバスが来るんですよね?ご存知ないですか?」

地元の人ならどこにバスが来るかどうかは判るだろう・・何処方面かどうかはわからなくとも。

「あぁ・・それは 午前中のバスで・・ 夜は 白馬荘の前ですよ」

「え・・・ええええ」

麻理子は心の中まで この冷たい空気が充満したかのように思えたが、
心の声は一瞬で抑えることができた。

「あ・・ありがとうございます。 集合時間30分なので 行ってみます!」

「あら・・・ じゃぁ急がないとー・・多分少しなら待ってくれてると思いますよ」

「はい!」

白馬荘・・・良かった 私の泊まっていた旅館の近くにあった アレよね。
この時点で場所も判らなかったら・・・ うわ・・ゾッとする

重い荷物を引っ張る手が痛い、指が細い針金でできているように・・・雪の凹凸を通るたびに
関節にその針金が擦れ、痛みを生じるようだった
それでも バスが自分を待っていてくれなかった後の事を想像したら
この手の痛みや、足先の 、冷たい痺れなんかの非ではないと麻理子は考えていた。