ムクッ・・・・
「うっ・・・ お腹が・・・」
そう呟くとお腹を押さえてよたよたと洗面所へ歩く。
どうやらお腹が冷えてしまったらしい。

ジャー・・・ゴゴゴゴゴ・・・・・キュッ・・・シャバババパチャパチャ

また竜のいびきが弱くなっていた。

「ふぅ・・・・ ・・・あっ・・・そうだ。」
麻理子は洗面所の向かいにある鏡の横の小さな戸棚を開いた。

「あったあった・・・フフ。」
そこには 予備の毛布が1枚棚の上部に綺麗に畳んで置かれていた。

床よりも少し濃い薄茶色の毛布を、足元に広げて右半分に寝る。余った左半分を上にかけて包まると、
再び深い眠りについた。

だがやはり毛布1枚では 麻理子の体を完璧に温めることはできなかったようで、
時折ブルブルと 身震いをしていたが、 寒さが眠りから戻すことをさせなかった。

ガバッ・・・・ギシ・・・・

ベットから黒い影が麻理子に向かって伸びてくる。 麻理子はまだ気付かない。

真っ暗な部屋に月の明かりと街灯の灯りがベッドを照らしている。 そのこぼれた光が玄関までを
淡く照らしていた。

スッ・・・・・

足音は寝ている麻理子の横でぴたりと止まり、 影だけが 影の主が体の向きを変える度に形を変えている。
黒い影は 玄関の角で折れ曲がり、玄関のドアノブまで伸びている。

「いや・・・置いて行かないで・・・ いやよ・・・。」

帰りのバスが今にも出発しそうにマフラーから灰色の煙を吐いている。

ハァ・・・ハァ・・・
「良かった・・・間に合っ・・・。」
重い足を必死に上げて、 ようやくバスの取っ手に手をかけるところまで来れた。
すると・・
バスの中が急に暗くなり、 その中から昨日の男、龍が怪しく微笑みながら現れた。