数分後に寺山がロビーに現れた。

「あ、どうも~ お待ちしてました丸山様」
寺山は麻理子の方を見ようともせず、 汗だくの男の席の向かいに座る。

「寺山くん、 今日は夕子さん・・・ いるかい?」
「・・・・はい、 勤務されているようですが、なにか?」
寺山の表情が途端に曇る、

「いやだなぁ・・・ 前に話したじゃないかね、 今度さ、誘ってくれるって約束だろう?」
「丸山様・・・それは・・・・」

「いいんだよなぁ~ なの、ツンと尖った鼻。 高飛車な態度!」

しばらく眉間にシワを作りながら俯いていた寺山が なにか思いついたのか、
急に前向きに話しだした。
「・・・・・・・どうしても・・・早乙女夕子さんでなければいけませんか?
夕子さんは 社長の娘さんです・・・・・ そのような事はしてもらえそうにありません・・・」


寺山は、しばらく考え込むと、 これだけは言いたくなかったのですが・・・と、話を切り出す。
「他の・・・・ 女性ではいけませんか?」



「おっ? 」
本当は丸山も、社長令嬢が接待にくるとは思ってもいなかったのだろう。
寺山の提案に、まってましたと言わんばかりの表情をした。


「・・・・・ここでは何なので、コーヒーでも飲みながら話しましょう」

そう言って、席を立とうとした時、早乙女夕子が何やら書類を抱えて
二人の横を通り過ぎようとしている。

寺山がそれに気付いたのは、不覚にも丸山の好色そうなニヤケ顔が
夕子の方を向いてからだった。

(まずいな・・・ )

「さ、丸山さん 行きましょうか」
慌てて急かそうとしても 丸山の目線は夕子に釘付けのままで、
寺山の方を見ようともしない。