スキー場前、時間は22時
白いダウンジャケットを着た女性が電話BOXの前で佇んでいた。
「ここで30分にバスがくるんだよね?」

独り言を言いながら 何度もマップと辺りを照らし合わせて
いる。
マップを持つ手が素手では我慢ができなくなるほど
気温がどんどん下がってきているのがわかる。
ちらちらと舞いながら降る綿雪も ただの気の迷いのようで
なんの意味もなく、それ以前に空気がキンと冷たかった。

彼女の名前は石川 麻理子、24歳である貿易会社の受付に就職が
決まって2年。一人でスキー旅行に来るという、彼女なりの
大冒険の末路が、今迫っている・・

「・・っだから こんな夜中に外でバスがくるなんて無理だって
思ってたのよ・・・30分に来なかったら私どうなるんだろう・・・・う・・・ふぇ・・・」

心のコップから不安というジュースが一気に満タンまで膨張し、
表面張力で留まっているかのように、麻理子の目に沸いた涙は流れ落ちる寸前まできていた。

雪は麻理子の不安の上に積もるように 途切れることなく降りつづける。

「どうして 誰も来ないの? 神戸まで帰る人っていないの? あぁっもう!」

麻理子はこれまで 石橋を1ミリ単位で叩きながら3年かけて渡るほど
慎重に慎重に生きてきた。 お金の面にしても、無駄遣いをすることなく。
一人旅行に行くことも無い。夜道を一人で佇むこともしない。
事故る人は それなりに隙があるから事故るんだ これが彼女なりの定義だった。

そんな彼女がどうして・・・